総合商社の業界動向を分析する

 

 

・総合商社上位5社の売上高はピーク時より半減。一方で稼ぐ力は向上
・ビジネスモデルの軸足が、トレーディングから事業投資へシフト。
・事業投資は川上では事業・権益投資へ、川中・川下では販売会社への投資へ。
・国内市場では、川中・川下の垂直統合化。
・新興国市場では、ポートフォリオのリバランスへ。

収益力は向上

5大総合商社の事業規模(売上高合計)は、ピーク時である1990年の101兆円から、直近では50兆円を下回っており半減している一方で、収益力の面では向上しており、商社の稼ぐ力が強くなっている。
総合商社7社 当期利益・総資産・株主資本の過去10年の変遷は?
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ビジネスモデルの軸足が、トレーディングから事業投資へシフト

商社のビジネスはトレーディングと事業投資、の二つが基本。
トレーディングビジネス
・取引仲介料(口銭)収入で稼ぐ
・製品・サービスの商取引のバリューチェーンの一部、または全部に関わる取引を仲介

・バリューチェーンの川上領域では、海外より輸入した原材料・中間材の日本製造企業に対する納入などが中心。
・バリューチェーンの川中・川下領域では、製造企業が製造した製品の卸売販売が中心。製品販売分野は、関連会社などの別会社にて行う企業も多い
(例えば、鉄鋼分野の製品領域では、伊藤忠商事・丸紅が伊藤忠丸紅鉄鋼、三菱商事・双日はメタルワンに別会社化しているなど事例多数)。
事業投資ビジネス
・投資収益とよばれる①インカムゲイン(配当収益)、②キャピタルゲイン(株式売却益)で稼ぐ。また、投資回収手段として、③トレーディングビジネスにおける口銭収入(いわゆるTier2収益)も存在する事が商社の事業投資の特徴。
・バリューチェーンの川上領域では、原材料産地国における原料確保のための事業・権益投資が中心。
・バリューチェーンの川中・川下領域では、製品の販売先となりうる販売会社への事業投資という形が主となる。

・かつて商社のビジネスモデルはサプライヤーとバイヤーとをつなぎ口銭(コミッション)を稼ぐトレーディングビジネスが主軸だったが、IT技術の発展や取引企業の規模拡大に伴い、取引の源泉となる情報格差や与信力格差が縮小しつつあることから、昔ながらの商社の強みを発揮できなくなった。

・こうした背景に伴い、総合商社に求められる基本機能も変化。具体的には、従来の情報力、物流管理力、取引与信リスク管理力といった機能に加え、事業投資を含む事業ポートフォリオ管理のための、事業リスク管理力、財務安定力、経営人材輩出力、プラットフォーマーとしての地位創出が求められている。

国内市場では、川中・川下の垂直統合化

総合商社の事業領域は資源系(エネルギー・金属)から非資源系(インフラ、機械、化学品、生活産業)まで多岐にわたる。

総合商社の顧客ネットワークはグローバルに拡大しているるが、現在でも主たる販売先・客先は日本企業であることから、国内市場の動向に強く依存する事業構造である。

したがって、日本産業界にとって国内市場は全体として少子高齢化により大幅な市場成長が望めない状況である。総合商社にとっては「生活産業」・「化学品」などの川中・川下分野において、商流が先細りになりかねない市場環境に直面している。

このため、大手総合商社各社は事業投資を積極化し、川中・川下の垂直統合化を図ることで、商流の確保・事業収益の増大を図る戦略を基本軸としている。

例えば、食料分野において、三菱商事が川中分野で三菱食品・明治屋を、川下分野ではローソン、イオンへの投資を行っているなどがその典型的事例である。

 

新興国市場では、ポートフォリオのリバランス

先述の通り、総合商社の客先は依然として日本企業が多い。

特に、日系製造業の安定供給を支援するため、「エネルギー」・「金属」といった資源系分野、および「生活産業」・「化学品」といった非資源系の川上分野において、資源確保や新エネルギー開拓のための事業投資・権益投資が商社の機能としても求められてきた。

また、日本産業界にとって新興国地域は日本の技術・製品・サービスの販売先としての有望市場でもあるため、総合商社も日本製造業の成長戦略を支援する水先案内人という形で、「インフラ」、「機械」などの分野において、人口増加・経済発展が著しい新興地域に対し、自動車をはじめとする機械・部品の販売、電力・水・交通などのインフラ受注などを推進してきた。

しかし、新興国の成長鈍化やカントリーリスクの顕在化により、新興国に対する投資に関してもセレクティブな判断が求められる環境となっており、各社ともに投資ポートフォリオのリバランスを進めている。

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